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コイルを使う人のための話 | 第1部|第9回 | 温度特性と絶縁特性

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第9回 | 温度特性と絶縁特性

第9回目は、特性の中から残っている「温度特性と絶縁特性」についてです。

インダクタンスの温度特性

多くのコイルは、磁性材料を使用して作られています。 この結果、コイルの特性は磁性材料とコイルの構造(磁気構造)により大きく変化します。

磁性材料として多く使用されているフェライトコアの場合、透磁率(μi)はプラスの温度特性を持っているものが大半なので、インダクタンスの温度特性も一般にはプラス(温度が上がるとインダクタンスが増加する方向)になります。 但し、同じ材質を使用してもコイルの構造が異なると、温度特性も大きく異なることがあります。

グラフ-1は、弊社パワーインダクタ7E04LB7E05NBの温度特性の測定例です。 二つのコイルの構造はほとんど同じですが、フェライトコアの材質が異なることで、温度特性にも差が出ています。

パワーインダクタの場合、インダクタンスの温度特性よりも直流重畳特性の方を重視して開発されるので、結果として、このような差が出てしまうことがあります。

見た目が同じようでも、温度特性は同じとは限らないので、必要に応じて温度特性も確認するようにして下さい。

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*7E05NB 現在はラインナップしていない製品です

グラフ-2は、弊社デジタルアンプ用インダクタ7G14Cの温度特性の測定例です。 ここで注意して頂きたいのは、グラフ-1と-2では縦軸の目盛り()が10倍違うと言うことです。

7E04LB, 7E05NBと7G14Cは、どれも閉磁路インダクタですが、構造の違いにより「インダクタンスの温度に対する変化」が随分異なることを分かって頂けると思います。

意識して、温度特性を大きな値にしている訳では無いのですが。

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直流重畳電流の温度特性

パワーインダクタの直流重畳特性のカーブは、一般にグラフ-3(弊社CER1042Bの特性例です)のようにコイルの温度が上がると手前に来ます。 その割合は、構造と使用しているフェライトコアの材質により異なりますが、傾向としてはグラフ-3のようになります。

パワーインダクタは、電流が流れると自分自身が発熱するのと、比較的温度の高くなる場所で使用されることが多いので、高温下の特性の変化についても確認が重要になります。

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絶縁抵抗

コイルに使用していてフェライトコアには、ニッケル(Ni-Zn)系とマンガン(Mn-Zn)系の2種類があります。 磁気特性以外の違いで目立つのは体積抵抗率の違いで、ニッケル系の1,000,000Ω・mに対して、マンガン系は0.1~10Ω・mになりますが、金属の場合は更に小さな値の0.000000001Ω・m程度になります。

分かりにくいので、試しにマンガン系フェライトコアの表面の抵抗を測定してみましたが、「測定端子の間隔を5mm」にした時で約150kΩでした。

ニッケル系の場合は絶縁体と考えて問題ありませんが、マンガン系の場合、一般的な電圧範囲では殆ど問題無く使用可能ですが、一部の高電圧部分や、絶縁が重要な回路では対策が必要になります。

このため、マンガン系は用途によりフェライトコアの表面を絶縁処理して、ニッケル系と同等の特性を維持しています(弊社パワーインダクタHERシリーズで採用)。

パワーインダクタにはニッケル系を、トランスにはマンガン系を使用することが多いのですが、一部のパワーインダクタには直流重畳特性を改善するために、マンガン系(絶縁処理して)も使用されています。

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著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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