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コイルを使う人のための話 | 第1部|第12回 | コイルを使用する時

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第12回 | コイルを使用する時

最終回は昨年末に発行予定でしたが、諸般の事情によりが遅れてしまい申し訳ありませんでした。 さて、第12回目は最終回と言うことで「コイルを使用する時」についてです。

コイルの動作を理解するために

同じ電子部品なのに、コイルがコンデンサに比較して分かり難いのは、コンデンサが電圧素子であるのに対して、コイルは電流素子だからかも知れません。

「電圧が同じならば使用可能」と言うのが一般常識になっているから、ごく普通の人にも「AC100V用の製品はAC200Vでは使用できない」くらいは理解されています。

では、この文章をお読みになっている皆さんは、次の1)と2)のどちらの表現が分かり易いでしょうか?。

  1. 抵抗に電圧を加えると、抵抗に電流が流れる。     電圧 → 電流
  2. 抵抗に電流が流れると、抵抗の両端に電圧が発生する。 電流 → 電圧

多分、1)の方が分かり易いと思った人が多いと思います。 そこで、コイルとコンデンサは電気的に相反する関係にあるので、コイル(電流)の動作を考える時にコンデンサ(電圧)と対比して考えると分かり易いかも知れません。 つまり、表-1のように、対になる内容に置き換えて考えます。

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図を使って説明すると、図-1の左の接続でSWをONにしてコンデンサの端子間に電圧を加えてから、電源を切り離し充電された状態にします。その後でコンデンサの端子間を閉じる(SWを閉じる)と、図-2のように一瞬大きな電流(i)が流れます(実際に火花が飛んで、電気エネルギーが発生したことが分かります)。

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同じことは、図-1の右の接続でSWをOFFにしてコイルに電流を流してからコイルをループ状に閉じて電流が流れ続ける状態にしてから電源を切り離します。その後でコイルの端子間を解放する(SWを開く)と、図-2のように一瞬大きな電圧(e)が発生します(実際には放電が起こり、電気エネルギーが発生したことが分かります)」となります。
このように、考え方を変えてみるとコイルもコンデンサも同じだと言うことが、何となく理解して頂けるのではないかと思いますが、やはり電圧の方が分かり易いでしょうか?

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逆起電力の発生

上の文章で説明したように、コイルに電流が流れている状態の時に、スイッチやトランジスタなどで瞬時に流れている電流を遮断すると、コイルは電流を流し続けようとしてコイル両端に非常に高い電圧が発生します。

この現象を利用して高電圧を発生させる方法もありますが、コイルに流れている電流をON-OFFする回路の場合などは、発生する高電圧に対する保護回路などの検討も必要になります。

試作検討時など、ノイズ防止のために電源ラインにチョークコイルを入れたりした場合も、同じ状態になることがあるので注意した方が良いでしょう。

周波数特性も

コイルもコンデンサも、周波数によりインピーダンスが変化し電気的特性が変ります。 回路中のコイルの周波数特性も、コンデンサと対比して考えると、表-1を参考にして「回路に直列(並列)に入れたコンデンサ」=「回路に並列(直列)に入れたコイル」が同じような周波数特性になります(図-3参照)。 但し、根本的な動作が異なっている点は注意が必要です。

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コイルの故障モード

巻線タイプのコイルの場合、故障の発生原因は色々とありますが、一番多い故障モードは「断線(回路がオープンになる)」になります。
また、条件の悪い環境下で使用する場合は、電線皮膜の絶縁劣化による巻線間のショートが発生することもあります。 断線は、一般のセットではコイルがオープン状態になり電流が遮断される方向なので、ショート状態になる部品よりは被害が少なくて済む事が多いのですが、コイルの断線で別の部分が大きな影響を受ける場合があります。 機械的な故障では「コイルの端子と基板のハンダ部分の剥離」があり、継続的に振動が加わるような場合で発生することがあります。

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コイルを使用する装置が、故障に対して特に高い信頼性と安全性を要求される場合は、信頼性を考慮されたコイルを使用すると同時に、これらの故障モードについても考慮する必要があります。
写真-1,-2(写真-2は製品の裏面)は、車載用に開発された製品CWD・CWRシリーズですが、高い耐衝撃性と耐振性を確保するために4端子構造になっています。  *CWD・CWRシリーズ 現在はラインナップしていない製品です。

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衝撃を受けた部品

部品をうっかり床に落下させてしてしまうことは良くありますが、落下することで部品に衝撃が加わります。 この時の衝撃の大きさは、床がコンクリートのように硬い場合は、短時間(数ms)ですが1,000G以上に達します。

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コイルには、磁性材料としてフェライトコアが多用されていますが、フェライトはセラミック(瀬戸物)と同じで大きな衝撃が加わると破損してしまいます。見た目に壊れていれば、落下した部品を使用することは無いのでしょうが、拾って外観に異常が無いと、そのまま使用されてしまうことがあります。しかし、衝撃によりフェライトにクラック(亀裂)が入いることもありますので、コイルを供給する側としてはできる限り使用しないことをお願いしています。

終わりに

第1部の全12回の連載も、何とか無事終了することができました。 おかげさまで、予想以上に多くの方にお読み頂けたようで、大変ありがたく思っております。
また、仕事を進める上で、この連載が少しでもお役に立てば幸いです。

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著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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