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コイルを使う人のための話 | 第2部|第2回 | コイルの極性と電流規格のはなし

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第2回 | コイルの極性と電流規格のはなし

コイルの極性の意味(電気的極性)

コイルの極性の場合、コイルの直接動作と関係ないので、電解コンデンサのように極性を間違えると動作しないことはありません。

写真-1は空芯コイルの巻き方向が逆の場合の例で、(A)端子から電流(青色)を流し込んだときに発生する磁力線の方向(極性:紫色)は、左右のコイルで逆方向になります。

また、実際にコイルを巻線するときは巻始めと言うのは存在しますが、写真-1のような対称形状のコイルの場合は、電気特性上の「巻始め」と言うのは存在しません(A,Bの区別がない)。

空芯コイルの方向

本当の意味のコイルの極性表示は、例えば「表示の有る側の端子から電流を流し込んだ場合に、磁力線の向きが上向きになる」と言った取り決めがあって意味を成します。

このことは、コイルを供給する側でも分かっていますが、事実上問題が発生していないこともあって、まだ統一されていない状況です。少なくとも、複数のコイルのときは極性表示を合わせて配置することで、相互のコイル間の関係はいつも同じになります。

極性表示のもう一つの意味(物理的方向)

例えば、片方の端子がグランド・パターンに接続されるような場合、多層巻きコイルの外側(通常は巻終り側)の端子をグランド側にすることで、シールド効果(グランド側の巻線がコイルの周囲を覆う形になる)が期待できる場合があります。

この場合は、磁力線の方向よりも巻線の位置(巻方向ではなく、巻始めと巻終り)が重要になってきますので、巻始め表示が意味を持ってきます。

写真-1のように横向きでは物理的に方向性が無い空芯コイルも、写真-2のように縦向きにすると「プリント基板面に遠い面(A:上側)と近い面(B:下側)」と言った方向性が出てきます。

立てた場合

特に高い周波数の場合は、ホットエンド(電位の高い側)がプリント基板面に近いか遠いかで、特性差(Qの低下など)が大きく出ることがあります。

写真-3は、デジタルアンプ用のパワーインダクタDBE7210Hですが、製品内のコイルは平角線を使用した横向きの空芯コイルがですから、巻線自体の方向性はありません。

ただし、フェライトコアの形状が前後で非対称(異なる形状の2個の組み合せ)なので、最終的に大きな特性の差はありませんが製品としての方向性が出てきます。

DBE7210Hと内部のコイル

コイルの電流規格

単純な質問に、「このコイルには、最大何Aまで流せますか?」と言うのがありますが、この質問に回答するには質問の真意が重要になります。理由は、流せる電流について大きく分けて次の3種類が考えられるからです。

  1. これ以上大きな電流を連続して流すと、コイルがダメージを受ける電流値 → 温度上昇許容電流
  2. これ以上大きな電流を流すと、インダクタンスが大きく減少しコイルとして機能が一時的に失われる電流値(コイルは劣化しないので電流が戻れば復帰します) → 直流重畳許容電流
  3. 瞬間的に流すことが可能な、最大の電流値
何アンペアかなぁ?

製品の規格としては、これらの値の中から一番小さな値を記載すれば良いとの意見も聞きますが、実際に使用するときのことを考えると、1.~3.の電流値が同じでないコイルの方が多く、通常は1.と2.を「温度上昇許容電流」と「直流重畳許容電流」として記載することが多いのです。

用途によっては、大きな電流が流れてインダクタンスの値が無くても、壊れないことを求められることもあるようで、2種類の電流規格を記載しています。

ただし、3.については通電時間とのコイルが冷えるための休止時間が必要で、条件の組み合わせが無数に考えられるので、一般に規格としては記載していません。

弊社インダクタの電流規格も調べてみましたが、表-1のようにタイプによって電流規格値の重み付けが異なっていることが分かります。

温度上昇許容電流」と「直流重畳許容電流」が同じ値だと分かり易いのかも知れませんが、個々の製品の構造上の差や想定したアプリケーションの違いにより電流値の規格が異なっています。

タイプ別の電流企画の例

製品が耐えられる最大電流は

基本的には「コイルの温度が規定温度以下」と言うのが一つの回答になりますが、規格の何十倍もの電流だと、表面の温度が上がる前に内部が焼けてしまいます。

通常、特殊な製品でない限り、定格電流の数倍程度の電流には、短時間であれば十分に耐える(劣化しないと言う意味でインダクタンス値の低下は無視します)ことができます。

電源の投入時など、定格以上の電流が流れていることは、実際には起きていると思われますが、コイルに関して言えば半導体のように少しの定格オーバーで破壊(劣化)することは有りません。

大電流インダクタCBE157H

著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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