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コイルを使う人のための話 | 第2部|第9回 | 仕様のはなし

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第9回 | 仕様のはなし

概算値を知る

あるインダクタンスから別のインダクタンスに変えた場合に、インダクタンス以外の特性がどの程度変化するのか、概算値で良いので知りたいことがあります。

もちろん、インダクタの仕様一覧をみれば直ぐに分かることですが、一覧表が無くても概算値(正式な値ではありません)を簡単な計算で知ることができます。

実際の概算値の計算方法ですが、次のような変換を行います。

インダクタンス値k倍(k = 知りたいインダクタンス/既知のインダクタンス)になると、
  → 直流抵抗値は、インダクタンスと同様にk倍になります。
  → 直流重畳電流は、1/√k倍になります。
  → 温度上昇電流は、1/√k倍(直流抵抗がk倍になるので)になります

なぜ、このような計算式で概算値が求められるのかは、一般のインダクタの場合には次のような関係があるからです。

  1. インダクタンス値は、巻数の二乗に比例する(インダクタンスの計算式参照)。
    → 巻数が2倍になると、インダクタンス値は4( = 22)倍になる。
  2. 同一形状(構造)の場合、電流値×巻数の値(アンペア・ターン)は一定。
    → 巻数が2倍になると、直流重畳電流は1/2倍になる。
  3. 巻線する巻溝部分の占有率は、インダクタンス値に関係無く一定で均一。
    → 電線径が2倍になると、最大巻数は1/4( = 1/22)倍になる。

実際のインダクタの場合は、100%上記の関係を満たしている訳ではないので、計算式で得られる値も誤差を含みますから概算値になります。

実際に、弊社のパワーインダクタCER8042Bの仕様で確認した内容を表-1に、7E04NAの仕様で確認した内容を表-2に示します。

確認方法は、一番上のインダクタンスの規格値(または実力値)を基準(赤字)にして、残りのインダクタンスの概算値青字)を求めて比較してみました。

形状やインダクタンスによりバラツキも有りますが、先ずは概値として利用できる範囲だと思いませんか?

CER8042B
概算値の確認結果(CER8042Bの場合)
概算値の確認結果(7E04NAの場合)

特性グラフの場合

グラフ-1のような直流重畳特性があり、例えば10μHの特性曲線(黒線)しかなかったとしても、他のインダクタンスの直流重畳特性の値を知ることができます。

方法は簡単で、例えば、33μHの特性が知りたい場合は、次のように行います。

  1. 10μHのグラフ上のP点電流値AインダクタンスLを読み取ります
  2. 電流値A’=A×√10/33、インダクタンスL’=L×√33/10を求めます。
  3. A’L’で示される点、P’をプロットします。
  4. P点の位置を変えて、P’をプロット(青線)していきます。

あるいは、10μHでインダクタンスが30%低下するときの電流値Aを求めれば、33μHでインダクタンスが30%低下する電流値は、A’=A×√10/33で求めることができます。

直流重畳特性の変換

周囲温度とコイルの発熱(ΔT)

周囲温度が常温(例えば+20℃)の時のコイルの発熱ΔT(全て直流電流による発熱とする)が分かれば、周囲温度が上昇した時のコイルの発熱ΔT’(常温時と同じ直流電流とします)の概算値を計算で知ることができます。

コイルに使用している銅線の直流抵抗値は、プラスの温度係数を持っていますので、周囲温度が上がるとコイルの直流抵抗も増加し、コイルの電流値が変わらなくても発熱は増加します。

従って、周囲温度が上昇したときの発熱は、この抵抗値の増加も考慮する必要がありますが、ここでは結果だけを示します。

常温T0(例えば+20℃)の時のコイルの発熱をΔT0 とし、周囲温度がTaのときの発熱ΔTa概算値は、次の式で求めることができます。なお、銅線の直流抵抗の計算が関係するので、0.92や0.004と言った数値が出てきます。

ΔTa ≈ 0.92 × ΔT0 + (0.92 + 0.004 × (ΔT0 + T0)) × Ta - Ta

あるいは、10μHでインダクタンスが30%低下するときの電流値Aを求めれば、33μHでインダクタンスが30%低下する電流値は、A’=A×√10/33で求めることができます。

グラフ-2は、周囲温度T0が20℃のときにΔT0 = 25℃のコイルを、周囲温度を上昇させたときの温度変化(赤線)と温度上昇ΔTa青線)の変化を示したものです。

周囲温度の上昇と共に、ΔTも増加することは、回路の損失が増加することを意味します。

従って、周囲温度ができるだけ上がらないようにすることは、電源回路の場合は変換効率を低下させないことを意味します。

周囲温度と温度上昇

利用上のお願い

今回お話しした内容は、理想状態を想定(求める特性に関係無い項目は無視します)して計算してあります。

従って、実際と必ずしも一致しない場合もありますので、あくまでも概算を知るための方法と思って下さい。

また、製品の構造・その他の要因により、概算値が大きく異なる場合も有ります。

写真-2のような場合も、コイルの構造が特殊なので、うまく概算が求められない可能性が大きいです。

低背型コイル

著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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