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コイルを使う人のための話 | 第2部|第8回 | 結合したコイルのはなし

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第8回 | 結合したコイルのはなし

結合した2個のコイル

結合した2個のコイルL1、L2は、図-1のように結合していないコイルで表すことができます。 このとき、結合係数k = 1.0は完全な結合を表し1個のコイルに、k = 0は結合していない状態を表し単に2個のコイルとなり、それ以外では3個のコイルとして表すことができます(図-1は、プラス結合の場合を示しています)。

結合したコイルを展開

結合係数

コイル間の結合の度合いを表す結合係数kは、結合したコイルの一端を図-2のように接続して、L1、L2、L3の値を測定し、次の計算式から求めることが出来ます。

数式(1)
L1 = (1) - (2) 間インダクタンス、L2 = (3) - (4) 間インダクタンス、L3 = (1) - (3) 間インダクタンス

接続図

試しに、オーディオフィルタ用に使用していた3枚ツバ・ドラムコア(写真-1)の結合係数を測定した結果を表-1に示します。コイルの極性の関係でL3の値が2種類になりますが、Mの絶対値と結合係数は同じ値になります。
測定結果

3枚ツバ

3個目のコイル

図-1の回路で、+M表記とプラス記号が付いた表記になっているのは、コイルの結合の極性で3個目のインダクタンスの値が、プラス(+)になるかマイナス(-)になるか、変わるからです。

図-3の左の極性だとプラス(+)になり、右の極性だとマイナス(-)になります。

コイルの極性

コイルが結合した場合の特性例

図-4の3次のLCフィルタで、L1とL2の結合係数kだけ変えて周波数特性を計算してみました。

グラフ-1は、結合無し(k = 0:青線)、結合係数k = +0.3(黒線)とk = -0.3(赤線)の場合の周波数特性の計算結果です。

コイルの結合の有無と極性で、フィルタの周波数特性が大きく変化するのが分かると思います。

3次LCフィルタ

特に、結合の極性が+の場合は、3個目のコイル(グラフ-1青色のコイル)とコンデンサC2の共振による減衰極が発生しています。本来ならばもう1個インダクタが必要な特性を、コイルの結合を利用することで可能になります。

コイルの結合による周波数特性の違い

逆に、コイルが結合すると想定していた特性と異なる周波数特になることがありますので、開磁路インダクタを使用してLCフィルタを構成する場合は、コイルの配置(コイル間の結合)にも気を付ける必要があります。

結合で現れるコイルを利用

実際には目に見えない3個目のコイルを利用しない手はなく、アナログ回路が全盛の時代にはLCフィルタを構成するときに積極的に利用した製品が多くありました。

残念ながら、回路のデジタル化が進んだ現在は、これらのLCフィルタも使用される機会が激減してしまいました。

もう一つの利用方法ラインフィルタ

ラインフィルタの回路の一例として、図-5のような回路があります。 T1(結合係数k =1.0のコイル)がコモンモード用のコイル、L1とL2がノーマルモード用コイルとして機能し、ノイズを除去します。

ここで、T1の結合係数kを1.0よりも小さくなるように、コイル間の結合を弱めると、図-1のように2個のコイル(L1-M、L2-M)が表れてきます。

ラインフィルタの例

このコイルを、図-5のL1とL2の代わりに使うことで、現実のコイルを無くして、図-6のようにしてしまおうと言うものです。

コモンモード用のコイルは、ノーマルモード信号(必要な信号)に対しては無いのと同じですが、実際にはノーマルモード信号にも不必要な高周波信号が含まれていることもあります。

このような場合に、部品点数を増やさないで不必要な高周波信号を減衰させることが可能になります。

コイル削減回路

また、結合係数が1.0の時は、磁束の向きが反対で打ち消す方向に巻線されているので、コイルの磁気飽和を考慮する必要がありません。

しかし、ノーマルモード信号はノイズ信号に比較して電圧が大きいので、結合を小さくしたことで出てきたインダクタを流れる電流による飽和を考慮する必要が出てきます。

結合を利用することの発想は良いのですが、大きな電流が流れる回路用では、飽和を避けるために製品の形状が大きくなってしまい、コイルを削減できるメリットが薄れてしまうこともあります。

写真-27W14Aは、2ch分を一体化した弊社のデジタルアンプ用インダクタですが、実装工数の削減を目的とした2個のコイルを合体させた製品で、結合をさせない事を前提にした製品となっています。

第1部の11回目に紹介しましたが、このタイプのインダクタのコイル間の結合は非常に小さい値で、結合係数は、ほぼゼロ(結合していない)になります

7W14A

著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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