searchサイト内検索 / 

コイルを使う人のための話 | 第2部|第7回 | パルントランスのはなし

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第7回 | パルントランスのはなし

高周波トランス用のフェライトコア

高周波用のトランスにもフェライトが、多く使用されています。使用されているフェライトコアの大半は、インダクタとしてずっと低い周波数で使用されている材質と同じものです。

インダクタの場合は、フェライト材質の周波数特性が直接Q特性に影響しますが、トランスの場合はチョット事情が異なっています。

試しに、トランスを評価したフェライトコア(写真-1)に巻線をして、インダクタンスとQの周波数特性を測定した結果を、グラフ-1に示します。

この特性だけで判断すると、とても数百MHzの高周波で使える代物とは思えませんが、トランスとしては立派に機能します。

インダクタンス特性

接続の違いによる特性の違い

高周波用トランスの場合、電線をツイストして巻線間の結合を強くすると同時に安定させることがあります。但し、電線をツイストすることで巻線間の容量(結合)も増えることになり、この容量分の影響でトランスの接続方向により、特に高い周波数で特性に大きな差が出ることがあります。

今回は、写真-2に示すように2個の穴の内側に巻線したトランスを作成して評価をしてみました。

グラフ-2は、巻数比1:1のトランスで、図-1(A) 接続と(B)接続の場合の周波数特性を測定したものです。巻線間の容量分Ccの影響で、(B)接続では帯域内に共振点ができてしまうのが分かります。このように、チョットした接続の違いでも特性に大きく影響することがあります。

評価したトランス

(A)接続の場合は、Ccの片側がグランドに落ちているので、高域特性がユックリと落ちてきますが、(B)接続の場合は、ホットエンド間の結合コンデンサになるので、トランスのインダクタンス分と共振現象を起こして、帯域内に減衰極が発生します。

接続方法

トランスの周波数特性は、低周波側の特性は、ほぼトランスの自己インダクタンスで決まってしまいます。

低周波側を広げるには、インダクタンスを大きくする必要があるので、巻数を増やすか(高周波側の特性が落ちてくる)透磁率の高いフェライトコア(=低周波用のコア材になる)を使う必要があります。

高い方は、逆に巻数を減らしてインダクタンスを減らす必要があります。

接続の違いと周波数特性

インピーダンス変換

高周波用トランスの主な用途は、インピーダンス変換や平衡-不平衡変換、または両方になります。インピーダンス変換は、一般にアンテナとの接続部分や高周波増幅器の入出力のマッチングに必要になります。平衡・不平衡変換は、アンテナ回路や差動入力回路で使用されます。

バルン 4BMH
4BLH

アンテナ回路に用いられるバルントランスに、図-2に示した回路のトランス(写真-4のような巻線になります)がありますが、これも図-3のように展開してみると、巻数比1:2(インピーダンス比1:4)のトランスだと言うことが良く分かると思います。

バルントランスの接続例/書き直した接続

図-4の接続で、巻数比が1:2のトランスの特性を実際に測定してみたのがグラフ-3になります。インピーダンスは、巻数比の二乗に比例するので75Ωの抵抗がトランスを入れることで4倍300Ωに見えるようになります。測定されたインピーダンスから、VSWRの値も計算して合わせて載せてあります。

このようにトランスを使用すると、非常に広い範囲でインピーダンス変換が可能になり、高周波回路で必要なインピーダンス・マッチングを行うことができます。

巻数比1:2
インピーダンス特性とVSWR

高周波回路は面白い

よく言われる「太く、短く」+インピーダンス整合に気をつけることが、ポイントの一つだと思います。

他にも、高周波の世界では、上の例のように回路記号上は同じでも接続を変えることで特性が変わることもあるし、物理的に完全に対象形でない部品の場合は、取り付け方向が変わることで特性に変化が生じることもあります。

しかし、最近では高周波用のシミュレータ・ソフトの性能が上がって、残留インダクタンスや浮遊容量を考慮することで、実際の回路を組まなくても性能評価が現実に近いレベルで可能になったようです。

それでも、高周波回路では実際に回路を組み上げて動作確認すると、予想外の結果が出ることも数多くあります。

高周波用部品においても同じ事が言える訳ですが、それだけに面白みの残っている分野(仕事)だと思います。

今回、この文章作成のために久しぶりに高周波の測定をしてみて感じましたが、1GHz位までだったら比較的問題は少ないのですが、2GHzを越えるとシッカリした方法で測定しないと値が怪しくなるのが良く分かりました。やはり、高周波(超高周波?)は難しい(面白い)ですね。

著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

注意事項
  • 本文中に掲載の製品の一部には、既に生産が終了しているものが含まれています。
  • 記事作成から時間が経過しているので、記載の情報が古いままの内容が含まれています。

※掲載内容に付いて、お気付きの点がありましたら、こちらからお願いします。