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コイルを使う人のための話 | 第1部|第6回 | インダクタの自己共振周波数

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第6回 | インダクタの自己共振周波数

第6回目は「インダクタの自己共振周波数」についてです。 現実の部品は、色々と理想の状態とは違っていて、予想外の特性を示す領域もあるものです。

自己共振周波数って?

通常のインダクタのインピーダンスの周波数特性(Z=R+jX)を測定すると、グラフ-1(jXだけをプロットしてあります)の青い線のようになります(グラフは、弊社CER1277Bの100μHの場合)。 ちなみに、赤い線は理想状態の100μHの周波数特性を示しています。
グラフ-1の特性で、インピーダンスの極性が反転(インダクタが共振していることを示しています)する周波数を、自己共振周波数(Self Resonant Frequency:SRF)と言います。

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自己共振の発生原因は

現実の世界では、広さ(大きさ)が有れば容量分(コンデンサ)が発生します。この容量のことを、寄生容量、分布容量、浮遊容量、ストレー容量などと言います。

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この結果、現実のインダクタの等価回路は、図-1のように並列に容量分(コンデンサ)Cpを加えるのが一般的です。

この容量Cpとインダクタ自身のインダクタンスLsが並列共振を起こし、グラフ-1のような周波数特性になります。

通常インダクタンスだけでは共振現象は起こりませんが、並列にコンデンサを接続しなくても、自分自身だけで共振現象が起きることから、自己共振周波数(SRF)と呼ばれています。

自己共振現象を避けることはできませんが、コイルの構造を工夫することでCpの値を小さくして、自己共振周波数の値をより高い周波数へ移動した特殊なコイルも存在します。

インダクタなのにコンデンサ?

インピーダンス(Z=R+jX)のリアクタンス(X)分の極性が、プラス(+)の時は誘導性(インダクティブ)で、マイナス(-)の時は容量性(キャパシティブ)であることを示しています。
従って、グラフ-1の自己共振周波数より低い周波数領域ではインダクタですが、自己共振周波数より高い周波数領域(濃い黄色の部分)ではコンデンサとして機能していることになります。 自己共振周波数よりも高い周波数では、もはやインダクタとして機能しないのです。
大雑把なイメージとしては、下図のようになるでしょうか。 理論上インダクタの場合は周波数が高くなるほどインピーダンスが大きくなり、信号が通過し難くなるのですが、実際のインピーダンス特性(|Z|をプロット)は、グラフ-2(赤い線は理想インダクタの場合)のように、自己共振周波数で最大値になり以降は減少していきます。

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現実のインダクタの自己共振周波数は

弊社のパワーインダクタ(CER8065B)の、自己共振周波数とストレー容量(Cp)の測定値を表-1に記載しておきます。

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一般に、ストレー容量の値は、インダクタンスに比例して増加するのではなく、インダクタンスの値ほどは大きく増加することはありませんが、インダクタンスの値が増加すると、ストレー容量も増加し、自己共振周波数も低くなります。

インダクタンスの違いによる、インピーダンス特性(SRFの位置)の違いをグラフ-3に示します。

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自己共振周波数に関係した使用上の注意点は

  1. インダクタをプリント配線板に実装することで、配線に伴うストレー容量が増加しますので、インダクタ単体の時よりも自己共振周波数は低い方に移動します。
  2. インダクタのストレー容量は比較的小さいので、実装によるストレー容量(プリントパターン間の容量)の増加の影響で自己共振周波数の値が大きく変化することがあります。
  3. 通常、自己共振周波数の1/10以下の周波数であれば、この影響をほとんど無視することができます。
  4. 自己共振周波数付近ではインピーダンスの値が増加しますので、上手く利用するとインダクタンス値以上の効果が期待できることがあります。但し、自己共振周波数は意図して作っている訳ではないので、バラツキも大きく注意が必要です。

著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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