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コイルを使う人のための話 | 第2部|第1回 | 互換性のはなし

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第1回 | 互換性のはなし

完全コンパチとセミ・コンパチ

通常、抵抗・コンデンサやICなどでコンパチ品と言えば「差し替えて、そのまま使用することが可能」なのが一般的ではないでしょうか? ところが、コイルに関して言うと、単純に差し替えて使用できない部品が数多く存在しているように思います。

半導体だと、セカンドソースから出てくるコンパチ品が有名ですが、パッシブ部品(LCR)だとOEMはあってもセカンドソースと言うのは、ほとんど聞くことはありません。

電気的特性コンパチと物理的なコンパチ

さらに話がややこしくなるのは、パワーインダクタと呼ばれている部品には、形状について業界共通の規格がなく、各社独自の形状を採用していることです。その結果、「電気的に使用可能か?」「寸法は同じか?」と両面から確認する必要が発生します。

俗に言う「特性コンパチ」、「ピンコンパチ」と言うことになります。 すでに、プリント基板が出来あがっている場合などは、先ずは「ピンコンパチ(SMDだとパターン・コンパチ?)」が絶対条件になり、電気的特性は後回しになります。

その昔、端子ピン・タイプが主流でSMDが出る前の話になりますが、この頃はまだ端子ピッチの同じ製品が結構ありました。端子ピッチを合わせることで、他社に置き換えられてしまうデメリットがある一方、自社にとっても製品の移行をスムーズに行えると言うメリットが存在していました。

また、ICが出始めたときには、端子ピッチを2.54mm(1/10インチ)の整数倍に合わせることを要望された時代もありました。

ピンコンパチといわれても

その頃に商品化された端子ピン・タイプのインダクタには、端子ピッチが2.5mm、5.0mm、7.5mmのものが数多くあります。

抵抗とコンデンサは、形状を含めて業界で規格化されている部分が多くありますが、一方のコイルは、昔から設計の自由度が大きい(カスタム品を依頼し易い)と言う流れが、今も続いています。「最初に特性ありき」の業界で形状が後から付いてくると言った風潮の中で、SMDにすることで端子の位置の自由度が減り、結果として形状がバラバラになってしまったようです。

端子の位置が一定しないのは

弊社内でも、製品の設計思想の違いにより、似た形状なのに端子の位置が異なるものがあります。これは、製品を開発するときに優先する特性が異なると、それに伴いコイルの構造が変わり、最終的に端子の位置が限定されて、端子の位置を合わせることができなくなってしまうからです。

写真-1は、弊社のパワーインダクタのCERシリーズ7E10シリーズ(廃番)ですが、最初に開発された7E10シリーズは、端子のコストが高いと言う弱点がありました。

CERシリーズのインダクタを開発するときは、見直しを行い敢えて端子の形状を変えることでコストダウンが図られました。

端子の位置を無理して合わせることは、コストからみると非常に難しく、メリットも少ないことが多いので、置き換え品以外では優先順位が低いのです。

CERと7E10の場合

コイル各社の互換性の状況

コンデンサと同じサイズのチップインダクタ(写真-2は、弊社のC1608CBタイプ)や樹脂封止インダクタに関しては、業界で形状が統一されていますが、パワーインダクタに関しては各社独自の形状が多く、統一がされていないのが現状です。

標準化された形状の例

各社、形状の近いコイルは用意していますが、端子の形状まで同じ(パターン・コンパチ)と言うのは、どちらかというと少ないようです。

お客様からの要望を優先して満たすために構造を突き詰めていくと、結果として微妙に形状の異なる製品が数多く出来上がってしまうのです。

特性についても、コンデンサの場合は、容量だけでなく耐電圧にも標準値がありますが、コイルの場合はインダクタンスだけで電流値の標準値はありません。この結果、実力値がそのまま規格に反映されて、似た形状でも微妙に電流値の規格が異なるといったことが発生します。

端子の形状

互換性とは離れますが、大型のコイルの場合は必ずしもSMDである必要はないようです。形状が大きいとリフローハンダでは熱容量の関係でハンダ付けが難しいなどのデメリットが出てきます。

実際、大型のコイルは重量があるので、基板に確実に固定するには、端子ピンの方がメリットが多いのでしょう。デジタル・アンプ用インダクタの7Gシリーズも、小形の形状を除けば端子ピンタイプが未だに主流になっています。

写真-3は大形の7G23Aで、コアのサイズが23mmと大きいので、ダミー端子2本を加えた4本端子構造となっています。

7G23A

著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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