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コイルを使う人のための話 | 第1部|第2回 | コイルのパラメータ(電気的仕様)

コイルを使う人のための話とは

「電子部品の中で、コイルは非常に分かり難い」ということを良く耳にします。確かに、コイル屋からみても、同じ受動部品の抵抗(R)やコンデンサ(C)と比較して、分かり難い気がします。 そこで、「コイルをもっと理解してもらって、もっと使ってもらおう」と言うことで、コイル屋の立場での「コイルを使う人のための話」と言うのを連載することになりました。 実際にコイルを使用して設計されている方の、お役に立てれば幸いです。

第2回 | コイルのパラメータ(電気的仕様)



インダクタのパラメータの主なものには、次のようなものがあります。もちろん、これらの全てが必要なわけではありませんので、用途に応じて必要なパラメータのみが必要になります。カタログなどにも、インダクタの用途を想定して、必要なパラメータのみが記載されています。

  1. インダクタンス: もちろん必須事項になります。
  2. 直流抵抗: 電源に使用されるインダクタでは、必須事項になります。
  3. 直流重畳電流: 電源に使用されるインダクタでは、必須事項になります。
  4. 許容電流: 電源に使用されるインダクタでは、必須事項になります。
  5. Q: 高周波用のインダクタで使用されることが多い。
  6. 自己共振周波数: 高周波用のインダクタで使用されることが多い。
  7. インピーダンス: 特殊なインダクタで使用されることが多い。
  8. 温度上昇: 電源に使用されるインダクタでは、必須事項になります。

それぞれのパラメータの概要

理想のインダクタとは、インダクタンスの値が一定、損失がゼロ(直流抵抗=0, Qの値が∞)、流せる電流が∞、発熱がゼロで、自己共振周波数が∞、と言った仕様になります。

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でも、これは回路上またはシミュレーション上の話であって、実際のインダクタの場合は、全ての値が有限の値になってしまいます。理想のインダクタとの違いを表すために、色々なパラメータが使用されています。

  1. インダクタンス
    インダクタの電気的な大きさを表し、単位はH(ヘンリー)です。現実の世界では、μH(マイクロ・ヘンリー:×10-6)やmH(ミリ・ヘンリー:×10-3)などが良く出てきます。
  2. 直流抵抗
    巻線(銅線)の抵抗分に相当します。これが小さいほど、損失が少なくなります。
    電源回路に使用する場合は、重要なパラメータになります。
  3. 直流重畳電流
    インダクタに直流電流を流すと一般にインダクタンスが減少しますので、インダクタンスの減少の目安を表す電流値になります。
    なお、減少したインダクタンスは、電流の値が小さくなれば元に戻ります
  4. 許容電流
    インダクタに流すことができる最大電流を表します。これ以上電流を流すと、インダクタが損傷することがあります。
    インダクタは電流型の素子なので、電流で使用条件が制限されます。
  5. Q
    規定の周波数の交流における、インダクタの良さを指数として次式で表した値です。無名数なので、単位はありません。
    story1-02_03r :その周波数での損失を表す抵抗分
  6. 自己共振周波数
    インダクタには、微少な浮遊容量(コンデンサ成分)が存在し、それとインダクタンスが共振現象をおこします。この時の周波数のことを表しています。
  7. インピーダンス
    規定の周波数の交流における、インピーダンスを表しています。特別な場合に使用されます。

インダクタの電流特性について

これも、分かり難い仕様の一つなので説明を行います。電流規格には、大きく分けて次の2種類があります。

  1. これ以上流すと、コイルが発熱で破損する電流値(直流)
    → 一般に「温度上昇(許容)電流」と言われることが多い。
  2. コイルは破損しないが、インダクタンスの劣化が大きくなる電流値(直流)
    → 「直流重畳(許容)電流」と言われることが多い。

なお、コイル業界では、上記1と2の小さい方を単に「定格電流」と言うことが一般的です。
必要とする特性を確認の上、仕様書の電流規格もじっくり見て頂けると助かります。
「定格」の意味には次の2つがありますが、コイルの場合は後者になります。

  1. 基準値: 電源電圧などの動作の基準になる値
  2. 最大値: 許容できる最大の値

インダクタの中には、同じ電流仕様でも発熱が少ない特性と直流重畳特性延びた右図(A)(B)の2種類の特性の製品が存在します。

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DC/DC電源の場合は、電流が連続して流れることが多いので、一般に特性(A)のインダクタ(通常のインダクタ)が使用されます。

最近はやりのデジタル・アンプの場合は、瞬間的に大きな電流が流れることが多いので、特性(B)のように発熱よりも、ピーク電流でインダクタが飽和しない特性が使用されることがあります。

参考までに、弊社デジタルアンプ用インダクタ「7G17D」の特性例を示します。

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※電流仕様の違いに注目して下さい。

他にも、インダクタンスの減少曲線が急峻な特性と緩やかな特性の製品(構造・材質の違いによる)がありますので、使用する回路に合わせてインダクタを決める参考にして下さい。

インダクタを決定するには?

インダクタも電子部品なので、最初に上記の「電気的パラメータ」を決めますが、それ以外にも形状、構造、使用環境などの条件を考慮してインダクタを決めます。仕様書に出てこない特性の資料も提供可能ですので、遠慮無く問い合わせてみて下さい。

直流重畳特性(インダクタンスの飽和)について

電線を巻いただけでコイル(これを「空芯コイル」と言う)を作ることはできますが、形状を小さくするために磁性材料を組み合わせて使用します。「空芯コイル」に、磁性材料のひとつのフェライトコアを組み合わせると、インダクタンスを数倍~数百倍にすることができます。
ただ、磁性材料には磁気飽和というのがあって、磁気飽和が起こるとインダクタンスを高める効果が減少するので、結果としてコイルのインダクタンスが減少してしまいます。
一般的に、同じインダクタンスならば、形状が小さいほど磁気飽和が早く起こるので、直流重畳特性の劣化が大きくなります(流せる電流が少ない)。それでも、材質の改善によりインダクタの形状も小さくなりました。

著者紹介

星野 康男

1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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