第4回 | インダクタと発熱 | コイルを使う人のための話(第1部)
第4回 | インダクタと発熱
第4回目は「インダクタと発熱」についてです。 多くの電子部品が、発熱による制限から使用することができる電流値の規格が存在します。 コイルも同じように制限を受けます。
発熱すると何が問題か
一つはコイルに使用している電線の樹脂皮膜(一般に、耐熱温度区分E種:120℃, F種155℃, H種180℃などを使用)が、熱で劣化しショートする可能性が増加します。 また、接着剤を使用しているコイルでは、接着剤の劣化によりコイルが破損する可能性が増えます。
もう一つは、フェライト・コアのキュリー温度(パワーインダクタの場合は、通常200℃以上あります)を越えると、磁気特性が消失してインダクタンスが激減します(こちらは、温度が下がれば元に戻ります)。
コイルも、一般の電子部品同様高温下に長時間さらされると劣化が進みます(電解コンデンサのように早くはないです)ので、温度が上がり過ぎないようにお願いします。
最悪の場合、温度が上がり過ぎて「コイルを固定しているハンダが溶けてしまい、プリント基板から脱落」なんてことも起こらないとは限りません。
コイルの発熱の原因
巻線型のコイルの場合、先ずは電線の抵抗分による損失で発熱します。コイルに流れる電流が直流電流の場合は、これだけですが交流電流の場合は、これ以外の損失(電線の表皮効果と磁性材料の損失)が生じ発熱します。
コイルの等価回路を Ls + Rsとして表した時、弊社パワーインダクタ( CER1277B-101)の周波数特性はグラフ-1のようになります。フェライトコアを使用したインダクタの場合、ほとんど同じような傾向にあります。
コイルに流れる電流が、交流分を含む時は、直流抵抗だけでなく交流(高周波)の損失分も考慮しておく必要があります。
但し、発熱は損失に比例(=電流の2乗)するので、コイルに流れる電流の直流と交流の比率が10:1とすると、Rsの値が100倍違って初めて、直流と交流の発熱が等しくなる計算になります。
コイルの発熱が予想外に大きい場合は、コイルに流れる電流波形を確認してみた方が良さそうです。
電流値の規格は電線の太さでは決まらない
一般に配線に使用する場合は、電線の太さは太い方が電流をたくさん流すことができます。巻線型のコイルの場合も、電線の太さを大きくすれば直流抵抗が減るので発熱が減り、大きな電流を流すことができます。
但し、太さ□□mmの電線を使用しているから□□アンペア(A)の電流を流すことができると、一意的に決まる訳ではありません。
流すことができる電流が制限を受けるのは電線の太さのではなく、電流を流すことによる発熱が原因だからです。細い電線でも、熱が逃げる構造になっていると、見掛けよりも大きな電流に耐えることができます。
参考として、弊社のチップインダクタ(C2012CB)とパワーインダクタ(7E06LB)の例で比較をしてみました。表-1の値からも分かるように、同じ許容電流値でも電線の太さが3倍も異なっています。これは、断面積にすると9倍も違うと言うことです。
パワーインダクタの方が、電線が太いのに許容電流値が低いのは、コイルで発生した熱が逃げにくいと言うことが原因です。そう言えば、半導体のワイヤーボンディング線も、パワー用でも結構細かったと思います。
コイルの温度は実装方法でも変わります
コイルで発生した熱は、コイル表面の空気を伝わって逃げるもの(空気の対流)と、コイルの接続部分から逃げるもの(熱伝導)があります。
特に、コイルの熱が端子からプリント配線板のランドパターンへ伝わる熱は、ランドパターンの大きさで変化するので、コイルの温度が大きく変わります。 従って、ランドパターンを利用して(大きくする)放熱することで、コイルの温度上昇を下げることも可能です。
また、プリント基板が水平に設置されるか、垂直に設置されるかでも空気の流れが変わるので、コイルの発熱が変わることがあります。
極端な話ですが、試作時に図-1のような仮ハンダ付け状態で評価すると、正式に基板に実装した時よりも温度が下がることがあります。
著者紹介
星野 康男
1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。
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