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第7回 | コイルの開磁路と閉磁路 | コイルを使う人のための話(第1部)

第7回 | コイルの開磁路と閉磁路

第7回目は「コイルの開磁路と閉磁路」についてです。 おかげさまで、予定回数12回の半分も終わり後半戦に入ることができました。

コイルと磁力線

コイルに電流を流すと磁力線が発生します。問題なのは、磁力線が金属(導体)を通過すると、今度は逆に金属(例えば、プリント基板の銅箔部分)に誘導電流(渦電流)が発生することです。
この電流は意図しない電流なので、時によって回路の動作に悪影響を及ぼすことがあります。
詳しくは、次回の「磁気シールド」に記載することにします。

閉磁路と開磁路

コイル(インダクタ)に磁力線は付きものですが、この磁力線がコイルの外部に漏れにくくした構造のコイルを、閉磁路構造(単に閉磁路とも言います)と言います。
逆に、磁力線が外部に出たままのコイルの構造を開磁路構造と言います。閉磁路構造は、シールドタイプなどとも呼ばれています。

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コイルの磁力線は、図-1のようにぐるっと回ってループを作りますので、開磁路の場合はコイルの周囲に磁力線が大きくはみ出します。
コイルを閉磁路構造にするには、巻線を磁性体で覆って見えなくしてしまい、磁束の通り道を磁性体で満たしてしまうことです。
こうすることで、磁力線は磁性体の中を通り抜け、コイルの外に漏れなくなります。

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例えば、図-2のようにコイルの側面を磁性体で覆うと、磁力線は磁性体の中を通るようになるので、コイルの外に漏れる磁力線が少なくなります。
より確実にするには、コイルの側面以外も磁性体で覆うことで、更に磁力線の漏れを少なくすることができます。

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あと、巻線が外から見えても閉磁路構造のコイルもあり、代表的なのがトロイダル・コイル(写真-1)になります。コイルで発生した磁力線は、コイル内のコアの中を通ることで、ループを形成し外に出ません。最近はセットの小形化が著しいので、隣接する部品同士の影響を避けるために、閉磁路コイルの方が好まれています。

閉磁路の定義?

部品の規格や業界内でも、どこまでが閉磁路と言う決まり(定義)みたいなものはありません。

メーカーが「閉磁路」と宣言すれば、閉磁路コイルになります。そんな状況なので、自社の製品を差別化するために「完全閉磁路」や「半閉磁路」みたいな言葉も出てきたようです。

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特性の違いは

インダクタの場合、閉磁路と開磁路では直流重畳特性に違いが出てきます。 これは、磁気構造の違いによるもので、閉磁路の方は、直流重畳電流の増加と共にインダクタンスが緩やかに減少して行く傾向にあります。

これに対して開磁路の場合は、直流重畳特性が伸びる傾向にあります。もちろん、使用している磁性材料の特性によっても、カーブの傾向は変化します。

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*CWD1045C、CWR1045C:現在はラインナップしていない製品です

グラフ-1は、弊社の車載用パワーインダクタCWD1045C(開磁路インダクタ)とCWR1045C(閉磁路インダクタ)の、同じインダクタンスで特性比較したものです。開磁路のCWD1045Cは磁気構造が開いているので、磁気飽和が起こりにくいので直流重畳特性が伸びています。

通常、開磁路インダクタに比べて閉磁路インダクタの方が、磁束が閉じ込められる構造なので実効透磁率(μe)が大きくなり、同じインダクタンス値の場合ならば巻数を少なくすることができます。

但し、コイル形状(構造)の中で巻線することができる部分が少なくなるので、同じ巻数を巻く場合は、電線の太さを小さくする必要があります。この結果、直流抵抗(温度上昇電流も)に関しては両者の差は小さくなる傾向にあります(閉磁路は、巻数は減らせるが線径が細くなる)。

著者紹介

星野 康男
1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。

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