第10回 | コイルの働き(動作) | コイルを使う人のための話(第1部)
第10回 | コイルの働き(動作)
第 10 回目は「コイルの働き(動作)」についてです。 コイルの動作には、色々なモードがあるので、他の部品よりも分かり難いのかも知れません。
インダクタンスを利用-1:共振回路
コイル(L)とコンデンサ(C)を組み合わせることで、共振現象を起こします。 並列共振回路の場合は、共振周波数で端子間のインピーダンスが最大(直列共振回路の場合は最小)になります。
これを利用して、特定の周波数を取り出したり、逆に取り除いたりすることができます。 なお、共振周波数 の値は、次の式で計算できます。
グラフ-1は、L=2.2mHとC=220pFで並列共振回路を作成してインピーダンス(赤)と位相(青)の周波数特性を測定したものですが、共振周波数は計算値 = 229kHzとほぼ一致しています。 この場合、コイルのQが高いほどインピーダンス特性の山の形が鋭くなり、ピークのインピーダンス値も大きくなります。
共振周波数は、インダクタンスの値が±5.0%変化すると、約半分の±2.5%ほど周波数が変化します。 従って、インダクタンス値のバラツキが重要になります。 昔は、可変コイルと言ってインダクタンス値を可変できるコイルが、高周波回路では多用されていました。
*5CHH 現在はラインナップしていない製品です
写真-1はSMDタイプの可変コイル(弊社:5CHHタイプ)ですが、上面の溝にドライバーを差し込んで回すことで、上部の磁性体が上下に移動しインダクタンスを可変(±数%~±10%程度)できます。
インダクタンスを利用-2:LCフィルタ
同じようにインダクタンスを利用したものにLCフィルタがあります。 L.P.F(ローパスフィルタ:図-1は3次のL.P.F)やH.P.Fのように、共振回路の無い場合は、インダクタとコンデンサの値でフィルタの特性が決まりますが、共振回路の時ほどインダクタンス値が変化しても影響を受けません。
また、DC電源のノイズ除去に使用するL.P.F.の場合は、インダクタのインダクタンスの最低値を考慮しておけば、大半の場合インダクタンス許容差が大きい製品でも使用できます。
この場合、理論的にはインダクタンス値は大きい方が良いのですが、現実のコイルには直流抵抗と自己共振周波数が存在するので、必要以上に大きなインダクタンス値にすることは逆効果になります。
スイッチング電源に使用されているインダクタは、LCフィルタ用とエネルギー変換用がありますが、LCフィルタ用の場合は直流抵抗(高周波の損失は無視できます)だけが重要になります。
エネルギーの蓄積効果を利用
コンデンサと同じように、コイルにも電気エネルギーを蓄えることができます。 コンデンサは電圧素子なので分かり易いのですが、コイルの場合は電流素子なのでチョッと分かり難いです。 電源からコイルに電流を流して蓄えてから、次に負荷に切り替えて電流を流すことを、繰り返して制御することでスイッチング電源ができあがります。
一定量の荷物(出力条件が同じ)を運ぶのには、大きな入れ物で運ぶ回数を減らすのと、小さな入れ物で運ぶ回数を増やす方法があります(図-2参照)。
スイッチング電源の場合に置き換えると、運ぶ回数が周波数に、入れ物の大きさがインダクタンスになりますので、最近のようにスイッチング周波数が高くなると、使用するインダクタのインダクタンス値も小さくて済むようになります(小形のインダクタが使用可能)。 実際のインダクタンスは、出力の条件により異なります。
スイッチング電源の場合、インダクタンス値のズレは、ある程度は周波数でカバーできますが、それよりも損失抵抗は電源の効率に直接影響するので、コイルの損失(直流抵抗と動作周波数での抵抗分)が低いことが重要になります。
磁力線(磁気結合)を利用
コイルは、磁気結合を利用することでコンデンサ他の部品ではできない動作ができます。 複数の巻線を結合させたトランスは、低周波(主に電源回路)から高周波(主にインピーダンス変換)まで幅広く利用されています。 写真-2は、高周波用バルントランス(弊社:4BMH)の例になります。
トランスの場合は、個々の巻線のインダクタンス値の重要性は低くなり(インダクタンスの最低値のみ必要な場合が多い)、代わりに巻線の結合状態や巻数比の方が、一般的に重要になります。
磁力線を上手く利用したのに、コモンモードフィルタがあります。 図-3のように信号(差動信号:青)とコモンモード・ノイズ(赤)の電流の向きが反対なのを利用して、信号に対しては磁力線が打ち消す方向に2個のコイルを結合してあります。 この結果、信号に対しては影響しませんが、コモンモード・ノイズに対してはインダクタンスとして動作し、コモンモード・ノイズが通過するのを阻止するように働きます。
単純にインダクタを信号線に入れた場合に比較して、信号には影響しないでノイズに対してのみ影響するようになり、信号の劣化を少なくすることができます。
コイルは、使用する回路(=コイルの特性の何を利用するか)で、要求される(=重要度)電気的パラメータが異なってきます。 このことから、弊社で想定した用途に応じて一般仕様に記載する内容も製品により変えています。
著者紹介
星野 康男
1954年生まれ。コイルが専門のレジェンド・エンジニア。
1976年に相模無線製作所(現在のサガミエレク株式会社)に入社。入社直後から技術部門に勤続。
技術部長・役員を歴任し、顧問として仕事の手助け・後輩の指導を続け2024年3月末に退職。わかりやすい技術説明には定評があった。
趣味はカメラ。好きな動物は猫(と鈴虫)。
- 本文中に掲載の製品の一部には、既に生産が終了しているものが含まれている場合がございます。
- 記事作成から時間が経過しているので、記載の情報が古いままの内容が含まれている場合がございます。
コイルを使う人のための話シリーズ第1部
コイルを使う人のための話シリーズ第2部
※掲載内容に付いて、お気付きの点がありましたら、こちらからお願いします。