「飽和(サチる)」で何が困る?——Isatを“数字だけ”で見ないための確認ポイント | コイルを作っている人の話 | サガミエレク株式会社
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「飽和(サチる)」で何が困る?——Isatを“数字だけ”で見ないための確認ポイント | コイルを作っている人の話

このコラムは、7Gシリーズがモデルのマスコット コイルちゃん が聞き手となり、開発部の ネオさん にお話を伺うインタビュー形式でお届けします。

はじめに

コイルちゃん(記者)

インダクタの話でよく出てくる「飽和」。 「飽和すると危ない」「飽和はダメ」と言われる一方で、具体的に何が起きて、どう確認すればよいかは曖昧なままになりがちです。今日は開発者の視点から、飽和(サチる)を"怖い言葉"で終わらせず、選定・評価の会話を前に進めるためのポイントを伺います。

「飽和(サチる)」とは何が起きている状態?

コイルちゃん

「飽和」と言うとき、現場では何を指すことが多いですか?

ネオさん

インダクタで「飽和」と言われる時は、たいてい「磁化飽和」のことを指します。それによって生じるインダクタンスの減少を規定する規格値を、直流重畳飽和電流とか magnetical saturation から Isat と呼んだりします。さらに飽和している時には「サチってるねー」と言ったりもします。

コイルちゃん

「サチってる」状態を一言でいうと?

ネオさん

大まかに言うと、インダクタに電流を流したらインダクタンスが下がって、それが原因で誤動作したりしている状態です。

サチると何が起きる?(症状は回路で変わる)

コイルちゃん

誤動作というと、具体的にはどんな症状が出ることが多いですか?

ネオさん

リップルが大きくなったり、発熱が増えたり、ノイズが増えたり、制御が不安定になったり、保護が働いて動作停止したりすることがあります。どのような事が起こるかは回路によって個別に様々です。ただ、たいていの場合「サチって困る」ケースって、高温下でIsat性能が減少することを考慮していない設計であることが多いように思います。

落とし穴:室温ではOKでも、高温でIsatが下がる

コイルちゃん

「Isatが10A欲しい」なら、Isat10Aの品番を選べば安心…と思いがちです。

ネオさん

よくある失敗がそれです。 規格値Isatが10Aであれば、室温(一般的には20℃)で使う分には問題がなくても、85℃、100℃、125℃と高温環境になるにつれてIsat特性が悪くなっていくことがあります。「製品によって」差が出るのは、使っている磁性体の種類で大きく違いが出るからです。例えば金属微粉末を圧縮成形(あるいは焼成)した磁性体では、Isatの温度依存性がない場合がほとんどです。一方で MnZn/NiZn系フェライトは、温度が上がるほどIsatが減少するので注意が必要です。一般的なパワーインダクタであれば、MnZn/NiZn系フェライトは温度が100℃上昇するとIsatがおおよそ25%低下します。 マージンを見て、「100℃で3割落ちる」と覚えておくとよいかもしれません。つまり、Isat10Aのインダクタが欲しい場合でも、仕様環境が125℃になるようであれば、13A以上のIsatのインダクタを選定すると良いと思います。

Isatは"聞き方"が大事:数字より「条件」と「最低L」

コイルちゃん

Isatって各社の定義が違うこともありますよね。

ネオさん

Isatの定義は本当にマチマチで、中の人もちょっと困ってます。製品の性能を保証するための最善の方法や顧客要求に応えながら規格を作っているので、しょうがない部分もあります。そのうえで、会話を前に進めるには、Isatという言葉だけで終わらせないのがポイントです。

会話がスムーズになる「確認の3ステップ」(そのまま使える聞き方)

ネオさん

私は、Isatを聞いたときにこう確認します。

  1. Isatが10Aと書いてあったら、まず「ピーク電流が10Aですか?」と聞く。
  2. 次に、動作温度上限を聞いて(例えば125℃)、「125℃でも10Aが発生しますか?」と聞く。
  3. そして「10A印加されたときに、インダクタンスは最低何μH残っていれば問題ないですか?」と聞く。
コイルちゃん

最後の「最低何μH」が重要なんですね。

ネオさん

はい。最低動作インダクタンス範囲を聞くのが最善策だと思っています。 たとえば「10μH・13Aのインダクタを探せば良い」となったときでも、 「このインダクタは何μHまでインダクタンスが減少しても問題が生じないですか?」と確認しておくとより良いです。もし「9μHまで」と言われたら、Isat以前に L公差(一般に±20%程度) の範囲を超えているので、もっと高い初期L値のインダクタが必要になる可能性もあります。

さらに、もし「最低動作インダクタンスが5μHでOK」と言われた場合も、直感ほど単純ではありません。たとえば選定L値が 10μH±20% なら、初期値として 8μH があり得ます。ここで、Isatの定義が「初期値から30%以内(=インダクタンス低下30%)」の規格だとすると、8μH×0.7=5.6μH までは"規格上は"到達し得ます。ただし「初期値から30%」という規格は、ばらつきを含めて実際にはもう少し深く落ちる個体が混ざることも考えられます。仮に 40% 落ちる個体が出ると、8μH×0.6=4.8μH となり、5μHを下回ってしまいます。つまり「最低動作インダクタンスが5μHなら楽勝」と思っても、L公差+Isat定義(何%低下基準か)+ばらつきが重なると、成立しない可能性が出てきます。ここは注意が必要です。

おわりに

ネオさん

Isatをカタログスペックだけで単純に選んで、後で困ってしまうケースがあるので気を付けましょう。数字だけで安心せず、ピーク電流、温度、そして「その条件で最低どれだけLが残れば成立するか」まで落として確認できると、サチり由来のトラブルはぐっと減らせます。

著者情報

開発部

開発部は、インダクタの設計・試作・評価から量産立ち上げまでを担うチームです。
お客様の要求仕様に対して、性能・サイズ・コスト・信頼性などの条件を整理し、最適な製品づくりを進めています。

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